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障がい児のための活動から母子手帳が始まった

ベトナム戦争の激戦地であったメコンデルタの中央に位置するベンチェ省。京都に事務局を構えるNGOの「ベトナムの子ども達を支援する会」は、1990年から脳性まひなどの障がいのある子どもたちの支援を継続的に行っていました。当時は母子手帳がなかったので、脳性まひの子どもが、妊娠中や出産時に何が起こったのかという記録もありませんでした。妊娠中、出産、新生児、小児と継続したケアを行うためには母子手帳が有用ではないか、ということで、1998年にベンチェ省の7つの村で、ベトナム版母子手帳の配布が始まりました。その後、ベンチェ省が母子手帳に積極的に取り組み、何回も改訂を繰り返し、2004年にはベンチェ省のすべての村で配布されるようになりました。

バイクに乗って診療所にやってきた親子(ハーザン省)、母親は文字は読めないが、
父親が読んで母親に説明するので、きちんと使えていると、この若夫婦は答えていました。

国際シンポジウムのインパクト

2006年、ベンチェ省人民委員会と大阪大学が主催して、「第5回国際母子手帳シンポジウム」がベンチェ省で開催されました。10カ国から160名の参加があり、ベトナム政府や34の省の保健局代表が集まったのです。この国際シンポジウムがきっかけとなり、母子手帳の有用性と重要性が多くの関係者に認識され、その後の全国への展開につながっていきました。
ベトナムは中央政府の力が強い国なので、母子手帳が全国に普及するためには、まず保健省が全国版を作る必要があります。ベンチェ省やハーザン省などで先行して行われていた、パイロット事業が大きな役目を果たしました。保健省の人たちが実際に農村部に行き、保護者や診療所/病院の医師・助産師、ヘルス・ボランティア・ワーカーによって母子手帳が使われる様子を視察したことで、母子手帳を普及するために何をすればいいのか実感することができたからです。

イラストや写真のないベトナムの母子手帳

保健省の母子保健局が精力的に活動し、ベトナム保健省版母子手帳が完成しました。ベトナムの母子手帳の本文には、イラストや写真がありません。親が心を込めて使い、将来は子どもにあげる大切なもの。文字や文書を大切に扱ってきたお国柄が感じられました。また、健診記録は、白色と黄色の2つの欄があります。医療面で問題があるときは黄色の欄に書き込み、保護者や保健医療関係者の誰が見てもわかるように工夫されています。
母と子どもにかかわるすべての関係者のネットワークで、母子の健康を守っていきたい! そんなベトナムの人びとの強い決意が母子手帳にも表れています。

インドネシアでは家族計画が重要。避妊具の使い方も母子手帳に書かれています。

妊産婦検診の記録のページ。問題があるときは、黄色の欄に書き込むようになっています。

執筆:NPO法人HANDS
代表理事 中村安秀