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インドネシアの医師が日本で見つけた母子手帳

1992年の冬、オーバーコートを着込んだインドネシア人医師が、「さむい、さむい」といいながら、私の研究室にやってきました。一年中真夏の国からやってきたのですから、東京の寒さは格別。しかし、彼は部屋に入るなり、日本研修中に保健所や病院で見た母子手帳のことを熱く語り始めました。  インドネシアでは妊婦用と乳幼児用の健康カードが別々に配布されているために、カードを失くす母親も少なくありません。  「インドネシアでは読み書きのできない母親もいるので、絵がたくさん入ったインドネシアスタイルの母子手帳を自分たちで工夫したい。だから、ぜひ協力してください!」

インドネシアでは家族計画が重要。避妊具の使い方も母子手帳に書かれています。

インドネシアでは家族計画が重要。避妊具の使い方も母子手帳に書かれています。
日本人専門家が全面的に協力

1994年に、独立行政法人国際協力機構(JICA)のプロジェクト活動の一つとして、インドネシア中部ジャワ州のサラティガ市(人口約15万人)をモデル地区にしてインドネシア版母子手帳の試みが始まりました。インドネシアの衛生局職員とともに、日本から派遣されている栄養士や小児科医が全面協力。保健所や病院の医師や看護師に、母子手帳への書き込み方の指導も必要です。親たちに母子手帳の大切さと使い方をきちんと説明することも重要です。乳幼児健診で活躍している村のヘルスボランティアを対象にした講習会も開きました。このようにして、お母さんが赤ちゃんを抱いている写真がピンク色の表紙にのっているという大胆なインドネシアスタイルの母子手帳が開発されました。  それから10年後。インドネシア国中にピンク色の母子手帳を普及させたい、というインドネシア人と日本人の思いがかない、「インドネシアのすべての子どもは母子手帳を配布されるべきである」という保健大臣令が出されました。

母子手帳は子どものもの。自分の母子手帳を大切にもつ4歳の女の子。
インドネシアで根付いた母子手帳

いまでは、インドネシアのすべての州で母子手帳が使われています。年間4百万冊以上の母子手帳を印刷する、世界一の母子手帳大国になっています。  中部ジャワ州で、知り合いになったタクシー運転手のお家を訪問したときのこと。お母さんが子どもの母子手帳を見ながら、妊娠中の記録、子どもの予防接種、体重のグラフなどを説明してくれました。丁寧に使われている母子手帳に見入っていると、お母さんから「ところで、日本に母子手帳はありますか?」と質問されました。自分たちはすばらしい母子手帳を持っているのだという、お母さんのちょっと誇らしげな様子がうれしかったです。

(左) 男児用の体重増加曲線のページは青が基調(女児用はピンク色)。
(右) カサを使ったイラストを使うことで、予防接種の大切さをアピール。

執筆:NPO法人HANDS
代表理事 中村安秀