母子手帳リレートーク

母子手帳と父子手帳

神戸常盤大学准教授 小崎恭弘

 

こどもと遊ぶのが好きで保育士になりました。初年度は1歳児クラスの担任でした。毎日戦いの日々でした。1年間の成績は「365戦360敗5引き分け」ぐらいな感じでした。とっても楽しくて、毎日おなか抱えて笑っていました。12年間保育士として勤めその後大学の先生になりました。今は児童福祉や家族支援について学生に教えています。自分のこどもをわが手で育てたいと思い、育児休暇を長男、次男、三男と三回とりました。これもまたおもしろくて、おもしろくて、仕事辞めたくなりました。そんな子どもも、もう高校生、中学生、小学生です。現在はNPO法人ファザーリング・ジャパン(http://www.fathering.jp/)の副代表として、父親支援にかかわっています。日本中に「笑っている父親」を増やしたいと思っています。

(1)現場から見えてくる子どもの現状と課題

こどもが過ごす基本は家庭にあります。もちろんいろいろな形の家庭があっていいのですが、あまりに父親達が家庭や子育ての場に少ないと感じています。23年度社会生活基本調査というものが先ごろ発表されました。それによると6歳未満のこどもを持父親、母親それぞれの育児時間の平均は

・男性 家事12分  育児39分

・女性 家事215分  育児202分

この圧倒的な時間の差は、もちろんかかわりの差になり、そのことは関係性や育児の負担感、責任の重さなど、様々な偏りにつながります。つまり子育ての場に父親がいないということが、一番大きな問題です。しかしそのことで父親のみを責めることは、大きな間違いです。父親達が育児をしたくてもできない、労働環境や社会状況がそこに横たわっています。それらを社会全体の文化やシステムを変化させることにより、より父親達が子育てにかかわれるようにしたいと思います。その一つが母子手帳ならぬ、父子手帳の存在です。

(2)母子手帳と課題解決の関係性と可能性

 母子手帳の正式名は「母子健康手帳」であり、その法的根拠は「母子保健法」の16条に規定されています。

第十六条  

1 市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。

2  妊産婦は、医師、歯科医師、助産師又は保健師について、健康診査又は保健指導を受けたときは、その都度、母子健康手帳に必要な事項の記載を受けなければならない。乳児又は幼児の健康診査又は保健指導を受けた当該乳児又は幼児の保護者についても、同様とする。

3  母子健康手帳の様式は、厚生労働省令で定める。

  前項の厚生労働省令は、健康診査等指針と調和が保たれたものでなければならない。

この条文からもわかるように、母子健康手帳の最も基本的な性格は「妊産婦・乳幼児を必要な保健医療支援等に結び付けるとともに、当事者自身による妊産婦・乳幼児の健康管理を促す」ということです。保健あるいは医療ということが、その中心的な役割といえます。そのことは我が国の母子保健の高い水準に寄与し、ママやこども達の命と健康を守ることに大きく貢献をしています。世界に誇るすばらしい制度なのです。

しかし残念ながら、父親の立場から母子手帳を見ると、あまり活躍の場は用意されていません。これはある意味当然であるといえます。だって母子手帳ですから。しかし以前から比べると、かなり父親を意識した内容や表現が使われるようにはなっています。しかしそれでもやはり物足りないというか、男性が踏み込みにくい部分があるのも確かです。そのような中で現在いくつかの自治体が「父子手帳」や「パパブック」など、父親達を対象にした、出産や育児についての読み物をだしているのをご存じでしょうか。我が国においては1985年に東京都が発刊したものが、多分初めてであるといわれています。その後都道府県や市町村、あるいはNPOや産婦人科などが発刊しています。またそれぞれに地域性や個性などを出したものを作っています。少し前に全国の「父子手帳」の調査を行いました。そこからわが国の父子手帳には大きく3つの特徴が見出されました。

1.マンガやイラスト、写真や川柳などを活用し、読みやすい多彩な内容になっている。

2.パートナーシップについての強く意識した内容になっている

3.沐浴や料理、遊び場所やこどもの安全管理など、具体的な育児の方法が書かれている

 もちろん母子健康手帳と違い、法的根拠もまた制約も全くないものであり、それぞれの製作者の意図がダイレクトにみることができます。この父子手帳の意義は、妊娠や子育ての初期からの父親のかかわりを促進することにあります。

女性が妊娠、出産を経て、母親へと変化していく道筋はそのプロセスが明確であり、またそれらの社会的なシステムや文化も成熟したものがあります。しかし男性が父親になっていく、プロセスはどのようなものがあるのでしょうか?社会には、そのシステムやツールやプログラムなどが、ほとんど用意されていません。男性はある日突然父親になります。その準備のなさが、父親を子育てから遠ざける一つの要因となっています。その様な状況の打破として、父子手帳の役割は大きいものだと感じます。

(3)子育ておすすめアイテム

 数年前にゼミ生と「父親が育児をしてみたくなる映像」を作りました。「あいうえおとうさん」というものです。よければ一度ご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=OAl6_dxLAfw

 

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