母子手帳リレートーク

子どもとの関わり方を学ぶ母子手帳を

国際交流NGO ピースボート 小野寺 愛 

はじめまして。波乗り歴15年、船乗り歴10年、母親になって5年、畑をはじめて2年の、小野寺愛と申します。旅と海が大好きで、国際交流NGO「ピースボート」に勤務して10年がたちました。これまで、洋上教育プログラムのコーディネーターとして地球を7周してきましたが、最後の2周は2人の娘も一緒に旅しました。 

メディアやインターネットが伝える通り、紛争、貧困、環境破壊など、世界が抱える課題はたくさんあります。そのすべてに対して小さくてもできることを続けたいと思うと同時に、2児の母としてこうも思います。未来を担う子どもたちに「温暖化で地球が危ない。紛争も貧困もなくならない。君たちの未来は明るくない」と、ただそれだけ伝えるのは罪ではないかと。 船に乗って実際に旅してみると、この地球がどれだけ素晴らしい場所かわかります。世界中の子どもたちの生きる力や、貧困や紛争の中にあっても強く育っていた希望に、何度も出会います。言葉も通じない文化圏の人の優しさに驚き、圧倒的に美しい大自然に感動します。それを、誰よりも直接この世界の未来に関わる子どもたちにこそ体験してほしいと考え、地球一周する親子を応援する船の上のモンテッソーリ保育園「ピースボート子どもの家」を立ち上げました。運営をはじめて3年がたち、これまでに約50人の子どもたちとその保護者が、地球一周の船旅を体験しました。ひとまわりもふたまわりも大らかになり、親子で成長して帰国する笑顔に会うのが、今、何よりの楽しみです。

(1)現場から見えてくる現状と課題

泥んこや水遊びを前にして、「これ、(汚れるのに)やってもいいの?」と聞く子どもがいます。たくさんの絵の具と大きな紙を前にして「何を描いたらいいの?」と聞く子どもがいます。そんな子どもたちも、大人が率先して泥に足を突っ込んで見せたり、一緒にきれいな発色を確認すれば、30分後にはいい笑顔で思いっきり遊びはじめます。

「環境問題」が毎日メディアをにぎわしているけれど、日本でいちばんの「環境問題」は、子どもたちの遊び場と居場所がないことだと思っています。ひと世代前まで都会にもあった原っぱや空き地、家と家のあいだの路地は車に奪われて、子どもたちが遊ぶのを見てくれた近所の大人たちの優しい目も減りました。公園の砂場には「不衛生だから」とネットをかけて、噴水は「濡れるから」「危ないから」と止めて、子どもたちが安心して遊べる空間さえ確保できないような未成熟な国に、将来はないと感じています。 いつの時代も、子どもは生まれながらにして天才です。子どもの側に、課題なんてありません。子どものありのままの育ちを、大人社会がどこまで邪魔することなく応援できるかが、今も昔も課題なのだと思います。子どもをとりまく一番の「環境」は、言うまでもなく私たち大人自身です。ところが、子どもと関わる仕事をしていると、「子どもと一緒に楽しく時間を過ごす」ことに難しさを感じる保護者が少なくないことがわかります。そして、私自身は、それはその人の問題ではなく、世代を超えた社会問題ではないかと感じています。

今、子育て世代である私たちの中には、高度経済成長期の「モーレツサラリーマン」の妻たちに育てられた人が少なくありません。経済成長の恩恵を受けて今の暮らしがあることは重々承知していますが、代わりに失ってしまったものも少なくありません。夫たちは地域の「務め」よりも会社での「稼ぎ」を優先し、コミュニティーが少しずつ崩壊していきました。最近よく話題になる「孤」育てのはじまりは、実は私たちの親世代にあったのかもしれないと思います。そして、その世代に育てられた私たちの中に、少なくない人数、子どもをフルに愛すことができなくなってしまった人たちがいて、しかも、それに自分で気づけずにいる。問題の根本は、高度経済成長期にあったけれど、今、はじめてこうした問題が世代を超えて顕在化しはじめているように感じています。 

(2)母子手帳と課題解決の関係性と可能性

モンテッソーリ保育園を運営しているため、保護者からよく「モンテッソーリの教具が素晴らしいから、家に購入したいが、なにからはじめるのがいいか」というような質問を受けます。質問者が教育熱心であればあるほど、私は「家に教具は必要ないと思います」と答えます。親が教師になってしまっては、いけないと思うのです。家庭であれ、園であれ、6歳までの子どもにとって大事なのは、「ありのままの自分がフルに受け止めてもらえる場所」「信頼・安心・愛の土台を学ぶ場所」です。どれだけ優秀に育っても、愛し・愛され、信頼・安心できる居場所を得ていない人は、自分とは異なる他者に寄りそうこと、そういった想像力をつかうことに難しさを感じると思います。

いま、世界のいろいろな場所で課題が山積みですが、生物多様性よりも開発を優先する社会、生命よりも経済成長を優先する社会は、無知からだけではなく、今社会をつくる大人、一人ひとりの「育ち」に起因しているのではないでしょうか。大人ひとりひとりが、まず子どもをフルに受け入れること、子どもにとって安心できる場所をつくることは、実はなによりの教育であり、社会変革です。でもそのことを、祖母から母へ、母から子へと世代を超えて継承するつながりが断たれてしまった場所がたくさんあります。母子手帳なら、親になったら誰であっても手にするもの。その母子手帳が、子どもとの関わりかたを学ぶきっかけ、親になったからこそ参加できる楽しいネットワークへの入口になっていたら、素敵だと思います。

新・母子手帳、もう手にとってご覧になりましたか?「必見・必読」機能には、子育て相談所の連絡先、産後うつの説明やチェックリスト、赤ちゃんのウンチの状態を写真付きの解説。「癒し・励まし」機能では、育児の名言を紹介して親を励まし、ねぎらうように作られていたり、「お父さんも一緒」機能としてパパ力を上げる方法が具体的に書いてあったり。急速に変化する育児環境に丁寧に対応したこの母子手帳、きっと、子どもたちが育ちやすい社会づくりの大きな一助となるでしょう。

(3)子育ておすすめアイテム

 

モノが多すぎるから片付かない。情報が多すぎるから迷ってしまう。私は今、自分と子どもの暮らしに「本当に必要なものだけ」取り入れようと模索中です。より楽しい子育てのため、より素敵な大人であるために、何か道具に頼るよりも、自分に決まりごとを課してみてはどうかと挑戦中です。それを皆さまとも共有します。

1.子どもの「自分でできた」を応援する! 「あなたはこぼすから、ママがやるわ」「あぶないからあっちで遊んでなさい」と子どもが自分でもできそうな仕事を取り上げるのは極力やめたいもの。大人サイズの麦茶ポットからお茶を注ぐのは無理でも、子どもサイズのピッチャーがあれば自分でできたり、大きな雑巾を絞ることは難しくても、自分の手のひらサイズのものがあれば2歳児でも自分で片づけができます。こぼしたら叱るのではなく「こぼれちゃったら、雑巾で拭こうね」。危ないことから遠ざけるのではなく、どうすれば危なくないかを子どもと一緒に考える。「自分でできた」が増える子育てを模索中です。

2.子ども同士の喧嘩が起こっても、大人は極力介入せず、子どもたちの中での解決を促す!  子ども同士でキックしあったり、おもちゃを取り上げあうくらいで大きな怪我をしないこと、大人なら誰でもわかっています。でも、自分の子どもが別の子どもに手を出してしまうとつい、子どものためというよりも相手の親の手前、「そんなことしないの!」「"ごめんね"しなさい」なんて声をかけてしまうもの。子どもは、お友達とのコミュニケーションの中で心を育んでいます。その機会を奪ってしまっては、問題解決能力だって育ちません。せめて親しい親同士の間だけでも「(怪我をしそうになるまでは)子どものケンカに介入しない」と互いにルールを決めて、見守りたいなと思っています。

3.大人も、社会の中で主体的に自分の役割をみつけ、楽しく幸せに毎日を過ごす!  母子手帳とともに見守るべき「誕生から6歳までの子どもたち」は、論理ではなく体験から世界を理解しています。「優しくしなさい」と言われるよりも優しい大人に囲まれているほうが思いやりが育つし、「挨拶しなさい」と説教されるよりも、大人同士の気持ちのいい挨拶に日々接する体験から、挨拶ができるようになります。というわけで、我が子に幸せな人になってほしいと願うなら、まずは大人としての自分が楽しく幸せに毎日を過ごさなくてはと、毎日頑張っています。笑

 

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