母子手帳リレートーク

母子手帳で、こどもの存在を考え直す

 まちの保育園 創業者・経営:松本 理寿輝さん

幼稚園と保育園を統合する「総合こども園」の流れがいよいよ本格化しており、社会的なニーズの変容からも、国としての保育や幼児教育のグランドデザインをするべきタイミングとなっています。施設の数をいかに増やし、待機児童をいかに解消するかといった「量のべクトル」が議論の中心となりがちですが、こどもの成育環境を考えれば当然にして、「質のべクトル」を並行して、働かせてゆかなければなりません。その「質」のために世の中に実践例を示してゆくのが、私たち施設を運営しているものの使命であり、社会的にとても重要な仕事をさせていただいています。

こどもは”具体的な未来”で、保育園や保育者は、日々こどもに接しながら、ひとの人生に大きく影響を与え、それぞれこれからの社会をつくっています。園の取組みの中で、何より肝心なのは、目の前にいるこどもの理解を深め、どのように向き合っていくかです。制度や社会情勢がどう変わろうが、一人ひとりのこどもに対して最善の環境をつくっていくというのは変わらないでしょうから。

 

(1) 現場から見えるこどもの現状と課題

0~6歳の人格形成期のこどもの成育環境は、その人間性を大きく左右するものとされ、どのような育ち・学びの環境を提供するかが保育園の課題となります。しかしそこに、決定的な「答え」がないところが、保育や幼児教育の最も大変なところであり、また最もおもしろいところでもあります。

なぜ決定的な「答え」がないかというと、保育・教育というものは、一人ひとりのこどもの「らしさ」と、どのような社会を理想とするか、そこで求められる人間像はどうかということの掛け合せから組み立てられるものです。しかし、理想的な社会・人間像は、特定の個人が「答え」を出すべきものではなく、社会のあらゆる立場・考え・価値観の人が関わり、導いてゆくべきものでしょう。そうなると決定的な答えはすぐに、あるいは一生出るものではないからです。それを考えると、「答え」を急ぐのではなく、むしろ「開かれた問い」を、こどもを中心とした社会の真ん中に置き、いつまでも終わりのない対話をこどものために、大人が続けてゆくこと、その中に保育・幼児教育の本質があるのではないでしょうか。

私たちの「まちの保育園」では、教師・保護者を中心とした大人たちによる、善意のコミュニティづくりとそこでの対話を重んじて、一日一日を大切に、充実したものとしてゆくことが、人格形成期のこどもの最善の環境をつくっていくことにつながると考えています。

(2)母子手帳と課題解決の関係性と可能性

ライフスタイルや価値観の多様化の中で、子育て世代に対する様々な支援が必要になっています。そのような流れの中で、乳幼児がいるおおよその家庭が必ず手にする母子手帳には大きな可能性があるでしょう。その大きな可能性を具現化して行くために何からはじめるか。それは、こどもとはどのような存在なのか、こどもの絶対的価値をいかに認めてゆくか、を社会的に対話してゆくことではないでしょうか。こどもは社会に大きな示唆を与えてくれるはずですから。

例えば、親とこどもの関係からみても、こどもの豊かな存在は浮かばれます。保育園では次のような内容について会話をしたことがありました。こどもは常に全体感覚的で、子育てにおいて、超人的な話や想像しもしなかった出来事が日常的にある。いつの間に、そしてどうやってことばを獲得したのか。あることに妙なこだわりを持っているのはなぜか。その独特な踊りはどこからやって来たか、など。しかし、親は、その不思議さを抵抗なく受け入れることができます。親はこどもの客観的には意味を持たない言動(ノンセンス)を主観的に理解しているようです。こどもはその表現のユニークさから芸術家と言われもしますが、そういった意味では親もとても感性豊かな存在であると言えましょう。この“全体感の世界の門”が開かれているときに、そのことに意識的になることによって見えて来るものがある。ことばのおもしろさであったり、音感の楽しさ、あるいは生命の尊さなど。

子育ては、人にとって自らを深化させる学びの機会でもあるに違いない。子育てにおいては「教える」ことが必要な場面もありますが、日常的に「学びあう」存在としてこどもに寄り添って行くのも、”お互い”の幸せな時間のすごし方なのでしょう、と。こどものイメージを豊かにして行くと親子の関係はより充実したものになる。そんな観点を母子手帳にもっと盛り込んで行けると素敵だなと思います。

 

(3)子育ておすすめアイテム

 『驚くべき学びの世界〜レッジョ・エミリアの幼児教育〜』(2011年/佐藤 学 (監修)、ワタリウム美術館 (編集)/出版社:ACCESS)

   この本に出てくる「レッジョ・エミリア教育」の“こども観”には大きな感銘を受けました。 こどもの可能性を信じるとは具体的にどのようなことなのかが浮かばれます。ぜひ読んでみてください。




 


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