母子手帳リレートーク

辛かったことは忘れがち。だからこそ産後の辛さを伝えていく。

産後ケアの大切さを日本に広めるマコさん
NPO法人「マドレボニータ」代表。東京大学大学院にて身体論や運動生理学を学び、産後の心と体のヘルスケアの研究・開発・普及活動を行っています。12歳の男の子がいます。
母子手帳をもらった年と場所:1997年 杉並区

ご自身の産後の辛さから、産後ケアのNPO法人「マドレボニータ」を立ち上げたマコさん。産後4週間の産褥期(さんじょくき)は、安静にして周囲の人に支えてもらう大切さを知る時期。産後ケアの大切さを熱く語ってくれました。

産褥期と母子手帳についての5つの質問

(1)産後ケアのサポートを始めたきっかけを教えてください。

妊娠中はすごく元気で、ヨガをしたり、妊娠後期でも三点倒立をしていたくらいなのに、産後、体がボロボロになってビックリして、そして焦りました。出産の素晴らしさはみんな話すけど、産後の辛さは誰も言わないんですよね。しかも妊娠中のケアはいろいろあるのに、産後ケアをするところがどこにもなくて。

大学院で運動生理学を学んでいて「からだオタク」だったこともあり、最初は自分が元気になりたい一心で産後ケアの方法を考え始めたんです。産後三ヶ月くらいのとき。きっと他にも困っている人がいるはずだ!と思って、産後半年後には教室を始めました。

産後、弱っているときに目に入ってくるのはダイエット食品とか矯正下着の広告ばかり。つい買っちゃおうかなって思ったり。でも、この時期に必要なのはダイエットじゃなくリハビリなんです。体型を「戻す」のではなく「バージョンアップ」する。出産は、仕事や健康、人間関係を棚卸して自分と向き合ういい機会なんですよね。

(2)出産前後で、カラダ以外で大きく変化することはありますか?

一番大きく変わるのは、夫婦関係ですね。産後白書(マドレボニータ発行)の中で、出産を機に夫婦の関係性がどう変わるのかアンケートを取ったんですけど、男女で感じ方が全然違うんですよ。実は、出産後に離婚を考えた妻は半数近くいるんです。

出産直後の幸せ度を夫婦に訊いたことがあって、Aさん夫婦は夫が100%のとき妻は50%、Bさん夫婦は夫が50%のとき妻はマイナス50%と答えていたんです。ちょうど子どもが生まれる時期って、男性は脂がのって仕事も忙しい時期に重なる。つまり、夫は「仕事楽しい、子ども可愛い、俺幸せ」、妻は「夫帰り遅い、子育て大変、私不幸せ」と(笑)。それくらい、すれ違っているんです。

父親は、「家事、育児をやってる俺ってかっこいいでしょ?」とアピールするのではなくて、家事、育児の大変さを理解して、妻に対するねぎらいや気遣いの言葉をかけてあげてほしいですね。妻は、子育てのパートナーであると同時に、一人の人間として接してもらうことを求めています。

「マドレボニータ」はスペイン語で「美しい母」という意味。表面的な「キレイ」ではなく、きれいなものも汚いものも含めて、すべてを受け入れてこそ「美しい母」になれると思います。パートナーとの関係も「期待しなければ裏切られないし」と諦めるのではなく、見たくないものからも目をそむけずにガチンコで向き合うことが大切ですね。

(3)「産後うつ」が問題になっていますが、産褥期のママの精神状態はどうなのでしょうか?

産後って、すごく孤独なんですよ。赤ちゃんは可愛いけれど、話し相手にはなってくれないし、か弱き赤ちゃんを守る責任が両肩にのしかかっているプレッシャーも大きい。でも「赤ちゃんといwう美しい存在がそばにいるのに、こんな気持ちになるなんて」という罪悪感もあって、なかなか他人に話せないんです。

ある自治体では定期検診で問診表に回答し、うつの傾向が出ると「要注意」って言われ、1ヶ月してから「どうですか?」って電話がかかってくるそうです。どうですかって言われてもね(苦笑)。診断はしてもソリューションがない。実は産後うつの専門家はまだ少ないんです。現在「産後うつ病」と診断されるのが10人に1人と言われていますが、うつ病一歩手前状態の人は実際にはもっと多いです。当事者はもっと声を上げてこの問題を世に知らせる必要がありますね。

(4)産褥期のママをサポートするために母子手帳にはどんな情報が必要だと思いますか?

母子手帳には赤ちゃんの育て方は載っていても、その赤ちゃんを育てるために必要な「母体の健康」についての情報は書いていないんです。母子手帳に産後の心身のヘルスケアのページがあればいいな。それから「家族の方へ」という形で、産後4週間は母親を休ませる必要があること、そして周囲が何をどうサポートすればよいのかが具体的に記載されていれば、みんなで共有できる。

「医師の診察」だけでは産後の体は回復しない。本当に必要なのは休養とリハビ リ。

ファザーリングスクールというセミナーで、父親が学ぶ産後ケアを教えているのですが、男性は知識が入ると燃えるんですよね(笑)。それと、祖父母にも産後ケアの知識が必要です。忘れていたり、情報が古かったりしますから。

(5)周囲の人が産褥期のママのためにできることはどんなことでしょうか?

親しい友人ならば、出産のお祝いに行ってあげてください。でも、赤ちゃんが産まれたばかりの家庭にはお客さんをもてなす余裕はありません。だからお客さんとして行くのではなく、助っ人として訪問を。ご飯をつくったり洗濯物をたたんだり生活のサポートを。「赤ちゃんがいて大変そうだから」といって寄り付かなくなってしまうのは寂しい。赤ちゃんと家にこもってしまうこの時期は、誰かが来てくれて少しでも話をすることは、よい気分転換になり、精神を安定させるんです。私の周囲ではインターネットで「産褥ヘルプシフト表」を共有してみんなで助け合っています。

実際には、出産直後に充分な休養をとらずに無理をして疲れてしまう人が多いです。そうするとその後も不調をひきずります。産後1ヶ月間はしっかり休んで、支えてくれる人に感謝することを学ぶ。子育ては自分一人ではできないということを受け入れ、謙虚さを身につけるのが、産褥期という時期なんです。

無理して自分一人でやってしまうこともできるかもしれないけれど、他の人に何かをしてもらって感謝するというマインドが育たない。「自分の子は大事だけど他はどうでもいい」っていう方向にも行きかねない。助けられたら、今度は恩返ししたいって思いますよね。出産、産褥期、子育てを通して、そんなよきおせっかいが循環して行くといいなと思います。

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