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下町情緒が色濃く残るまち、台東区

◯まちのデータ
東京都台東区
面積:10.08km²
人口:170,539人(男性 87,548 女性 82,991)2012年4月現在
15歳未満の年少者比率:9.32%(15,889人)
65歳以上の高齢者比率:24.21%(41,283人)
出生数:1,300人 出生率:1.10(2010年度)

下町情緒が色濃く残るまち、台東区。江戸以来の繁華街として、今でも国内外から多くの観光客が訪れる浅草、動物園や重要文化財に加えアメ横で有名な上野、レトロな商店街で賑わう谷中、調理関連の店が建ち並ぶ日本一の道具街かっぱ橋。古くからの商店もたくさん残る一方で都心に近くて便利なため、多様な世代、職業の人が集まっています。

そんな台東区で区民の健康を守るため毎日走り続けている、台東保健所保健サービス課長の小池梨花さん(医師)、保健指導担当係長の山田圭子さん(保健師)、母子成人保健担当係長の苛原千代美さん(事務)に、母子保健に関するお話を伺いました。

スカイタワー

出生率があがっている一方で、誰にも相談できず孤立しているお母さんが増えている?

台東区は平成15年頃から出生数が少しずつ増加しています。近年ではタワーマンションの建設などで、より子育て世代の転入が増えています。そんな台東区で最近気になることはどんなことでしょうか。区の保健師として長年地区活動や個別支援を行ってきた山田さんから、区の現状を話していただきました。

全国的な傾向ではありますが、高齢出産が増えてきています。また他のお母さんと積極的にコミュニケーションをとりたがらない方も増えてきているんじゃないかと思います。台東区は他の区と比べると二世代同居の割合は高いのですが、それでもタワーマンションの建設などにより核家族化は進んでいます。このことは、祖父母や隣近所の方と日常的に接する中での知恵がもらえないというマイナス面を感じます。

情報はたくさん吸収できるんですけど、その分不安が増えていると感じることもあります。育児書などの情報により、この時期にこうなっていないけど大丈夫ですかとすごく心配する方もあれば、全く心配しない方もいて、両極端という感じもします。 そのためか、いざ育児をするとなると赤ちゃんとどのように接したらよいのか分らない、普段から料理をしないので離乳食を作るのにとても手間がかかるなど子育ての力が弱くなっている方が増えているようにも感じます。もちろん、一方で積極的にコミュニケーションをとりたくましく子育てをされている方もたくさんいらっしゃいます。

台東区保健所

手厚い育児相談やハローベビー学級(母親学級・両親学級)で孤立化を防ぐ

台東区では、育児不安の軽減や保護者の孤立化を防止する目的で、育児相談や親同士が集う場を提供しています。

他の区と比べてどうかはわからないのですが、育児不安の軽減や孤立化防止ということで、かなりの数の育児相談を行っていると思います。まず、1〜3か月児の育児相談を2か所で月に1回ずつ開催しています。一部は「ハローベビー学級」といって、妊婦さんと1〜3か月児とお母さんを合流させる形で実施しています。一緒に実施することで、生まれたらこんなふうになるんだとイメージできるんですよね。

1歳6ヶ月までを対象にした育児相談は、月に1回6ヶ所で開催しています。いろいろな相談に対応できるように、保健師のほかに栄養士、歯科衛生士、助産師が従事します。1歳6ヶ月以降のお子さんに対しては、「とことこ育児相談」という育児相談を実施しています。そのほか、身体面はもちろん言語発達など精神面からの発達相談ができる場も用意しています。

このような手厚い育児相談は、6〜7年前から始まりました。その背景には「孤立するお母さんや仲間づくりが苦手なお母さんが増えている。何とかフォローしなければ!」という保健師の想いがあったそうです。

両親学級では地区ごとにグルーピングして話す機会を作るなど、育児不安の解消や保護者の孤立化を防ぐために様々な工夫をしています。平日と土日に開催していますが、殆どが土日に参加で9割が夫婦で参加するそうです。

お父さんの育児参加が進む一方で、子育ての悩みや日常のちょっとしたイライラに悩むお母さんもいます。

お子さん中心の毎日から少し離れ、大人だけで集まって話をして自分の気持ちに気づいたり、すっきりしたりできるマザーチャイルドグループ(MCG)というワークショップを開催しています。お子さんはお預かりし、専門家がサポートしながら、自分の気持ちを吐露してお互いに支えるという形でやっています。

昔は、お母さんが一人で子育てするのではなく、近所のおじさんやおばさんなど地域のいろいろな世代が子育てに関わっていました。しかし、いつからか子育てが「孤育て」になり、お母さんへの負担が大きくなってしまいました。一人で悩むお母さんを一人でも減らそうと、台東区の保健師さんたちはあの手この手でサポートしているのです。

また、お母さんになると、自分自身の健康は二の次になりがちですし、小さなお子さんと一緒ではなかなか外出や医療機関の受診もままなりません。そんなお母さんのために、台東区では「子育てママの健康診断」という仕組みを作って、お子さん連れで健康診断を受けられるようにしています。お母さんが健康診断を受けている間に、保育士に子どもを預けることができるので、安心して安全に子育て中のママでも健診が受けられます。保健所は、お母さんの心身の健康を支える、心強い味方なのです。

台東区では乳幼児や学童の時だけではなく、思春期から更年期、高齢期までの女性特有の身体やメンタル面の変化や悩みについて、トータルでサポートする仕組みがあります。「女性のトータルヘルスサポート」という事業では、保健所で産婦人科医と心療内科医(共に女医さんです)に予約を取って無料相談できるので、病院に行くほどではないけれど誰かに相談したいときや病院に行くべきかどうかの判断を仰ぎたいときにとても役に立ちます。

母子手帳について想うこと

成人母子保健担当係長の苛原さんから、母子手帳についてお話を伺いました。

2012年の4月から新しい母子手帳に変わって、妊娠中の食事バランスや便の色についても記載されるようになりましたよね。昔は健康と予防接種の記録だけでしたけど、至れり尽くせりで情報も多くなりました。母子手帳は進化し続けていますね。

母子手帳は元々、乳児の死亡率を下げるために導入されたものです。昔は、栄養あるものを摂っているか、ミルクを十分に飲んでいるか、身長と体重が正常に成長し、発達しているかを見ていればよかったんです。でも、今は子育ての状況や個別の問題が複雑になっていて、物質的なことからメンタル的なものに比重が移っていますね。

また、ハローベビー学級(両親学級)では、父子手帳を配布しています。お父さんになる心構え、妻の体と子どもの成長、赤ちゃんのお風呂の入れ方などが書かれています。母子手帳と異なり、読物としての位置付けが大きいですが、子どもは二人で育てるという意識を父親が持つことに繋がります。

台東区保健所のみなさま

その土地に生まれ暮らすだけで、健康になれる街へ

医師として公衆衛生行政に関わっている小池さんから、余談として、公衆衛生は病気になった後治療する医療とは異なり、病気になる前に予防することを第一に考えていく専門分野だという話をうかがいました。一次予防は「病気にならないため、栄養・運動・生活習慣に気をつけること」、二次予防は「早期発見・早期治療」、三次は「リハビリ・機能回復訓練」です。

予防は未病の対策なので、効果が高く経済的で、誰もが一次予防で健康の維持、増進ができたらベストでしょう。二次予防は病気にはなってしまいますが、早期に手が打てるので悪化を防止できます。高血圧、高血糖、高脂血症レベルで改善できれば、その先心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの病気にならないですむ、ということでは重症化予防といえます。癌であっても、早期であれば根治が可能です。もし、脳梗塞などで麻痺が残っても、三次予防で失われた機能を回復させたり、代わりの機能を強化させたりできます。寝たきりのように、自立した社会生活を営むことができなくなる状態を予防しているのです。

さらにもう一つ、0次予防という考え方があるそうです。

例えば、二つの環境を想像して比べてみてください。ある町は、運動する公園も施設もなく、外食したら野菜が少なく揚げ物ばかり。外を歩けばタバコの煙で受動喫煙に曝され、交通量も多く、隣との行き来も少ない。ある町は、散歩やジョギングをする公園や運動施設が整備され、外食すれば減塩で、カロリーと栄養のバランスが整った食事が自然に食べられる。空気もおいしく安全で、隣との挨拶や会話も多く、共同体が活きている。長年暮らせば、どちらの町の住民の健康度が高くなりやすいか、容易に想像できると思います。住民があえて意識していなくても、健康度の高い環境に長く暮らしていることで自然に健康になれること、それが0次予防です。

私たち保健所の仕事は、地域特性を理解して、その中から課題を見つけて施策に反映させて、予防や悪化を防ぐ仕組みを作ることだと思っています。そして、それは保健所単独ではできません。福祉や環境や公園、道路、街づくりなど、さまざまな部署が関係して協力して、初めて健康なまちが生まれ、育つことができるのです。そのためには、政策の決定を行う政治的な理解と決断、経済的な裏打ちがとても大切なのです。

母子手帳から始まったインタビューは、社会構造の話にまで及びました。取材のあと、小池さん、山田さん、苛原さんともに次の会議へと走っていきました。区民の健康を考え、毎日走り回っている保健所のみなさん。そのサポートがあるから、私たちは安心して暮らせるのですね。困ったことがあったら地域の保健所へまずは相談の電話一本だけでもかけてみてください。きっとあなたの力になってくれるはずです。